Sense of Wonder

  • 2025年05月31日 - 2025年06月29日
  • 会場:Marco Gallery 1F, 3F, 4F

初個展 「Sense of Wonder-幽⽞-」によせて

本展のタイトル「Sense of Wonder」は、海洋⽣物学者レイチェル・カーソンが1965年に遺した著書に由来する。カーソンは、⾃然界に潜む神秘や秩序にふれたときに湧き上がる、畏怖と驚きの感覚をこの⾔葉で表した。それは、知識に先⽴ち、世界の奥に触れようとする⼈間の根源的な感受性であり、⽣涯を通じて持ち続けるべきまなざしであると彼⼥は説いた。

私は彫刻家として、重⼒、遠⼼⼒、植物の成⻑、漂着物の軌跡といった、⽬に⾒えない⾃然のふるまいに関⼼を寄せてきた。それらは⼀⾒無⾳で無名な現象に⾒えるが、確かに存在し、絶え間なく物質に影響を与え、痕跡を残していく。私はそうした歪みとして現れる「なにか」に⽿を澄ませ、素材や空間を媒介に、かたちの奥にある動きや気配を掬い上げようとしている。

アイザック・ニュートンが⽊から落ちるりんごを⾒て万有引⼒の法則に⾄った逸話は、⾃然の現象が⼈間の思考を突き動かす瞬間を象徴している。私が関⼼を寄せるのは、重⼒という⾔葉そのものよりも、それを「発⾒」と捉える感受性のあり⽅にある。世界の輪郭は、気づくことによって⽴ち上がる。

重⼒に抗いながら空を⽬指す植物の新芽。その運動は、重⼒を感知するアミロプラストという⾊素体によって導かれる。まるで⼈間の三半規管のように、空間の⽅向性を知覚し、⾳もなく、重⼒に抗う意志を⽰す。そうした微細な運動のなかに、私は彫刻的なエネルギーの存在を感じ取っている。

また、海岸に流れ着いた漂着物を⽤いた作品群では、⾵や波、時間といった⾃然の⾒えざる要素が、物体に刻んだ記憶の層を拾い上げて再構成している。偶然と必然のあいだで彫刻は⽣成し、物語を語り出す。

本展におけるもうひとつの主題「幽⽞」は、東洋に根ざす「⾒えないものの気配を感じ取る感性」である。彫刻が視覚だけに依らず、空間の緊張や物質の沈黙、配置の呼吸といったものを通じて働きかけるとき、そこには幽⽞の感覚が宿る。

私は⾃然の「美しさ」を⽰したいのではなく、私たちのうちに眠る「感知する⼒」を呼び覚ましたい。⾃然の側から語りかける声に⽿を澄ませるように、⾒ること、聴くこと、気づくことが交差する場を⽴ち上げること。それが本展における彫刻の試みである。

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