引かれ、揺れ、留まる

髙橋 穣 / 隅 英二 / 前田 信明

  • 2026年02月14日 - 2026年03月14日
  • 会場:Marco Gallery 1F, 3F, 4F

本展は、「重力」を手がかりに、目には見えない力の存在を探る三名の作家による展覧会です。
情報や言葉が過剰に流通する現代社会において、私たちは何を信じ、どこに拠り所を見出すのか。その答えを見失いつつあるように思われます。SNS による言説の氾濫、政治や社会への不信、孤独の深化――こうした現象の背景には、見えない力への想像力の衰退が潜んでいるのではないでしょうか。
だからこそ本展では、重力という原初的で普遍的な力を通して、「信じること」や「見えないものとの関係」をもう一度身体的に感じ直す場を構築したいと考えています。
展示は、内省・社会・自然という三つの異なる重力の層を通して構成されます。
前田信明氏は、自己の内奥に沈潜しながら、画面と対話するように色層を幾重にも重ね、そのなかから水平線を浮かび上がらせます。そこに、彼がフリーハンドで一本の垂線を引く。その垂線は、息を止めるような緊張のうちに刻まれたものであり、禅問答のように、抵抗と許容を往還する精神の痕跡として立ち上がります。水平と垂直、静と緊張、受容と葛藤――その交差のなかに、あらゆる出来事を引き受けながらもなお世界を受け止めようとする、前田氏の「内なる重力」が現れているのです。
隅英二氏は、巨大都市に生きる人々の身体感覚と社会構造の力学に関心を寄せています。ニューヨークやバンコクを拠点に、科学とアートを架橋しながら、人間の関係性の中に作用する見えない力を「社会的重力」として表象します。彼の作品では、物理的な重力と社会的な圧力とが交錯し、私たちの関係性がいかに目に見えない力の均衡によって保たれているかが浮かび上がります。その探求は、社会の中で生きる身体の「重さ」と「浮力」を同時に問いかけるものです。
髙橋穣氏は、私たちが日々触れているにもかかわらず、科学だけでは捉えきれない「見えない力」への関心を出発点に制作を行っています。彼にとって地球は最大の彫刻であり、絶えず変化を続ける巨大な粘土のような存在です。彫刻という行為を通して、物質と重力、そして存在の関係に介入しようとする彼の試みは、形として定着しない力そのものの痕跡を探るものでもあります。
そこには、宇宙的な視点から世界の均衡を見つめ直そうとする意志が息づいています。
この三者の実践は、それぞれ異なる方向から「見えない力」に向き合いながら、最終的に一つの問いへと収束していきます。

内なる精神の重力、社会の関係性としての重力、そして自然・宇宙の重力。
これら三つの軌道が交わる空間において、鑑賞者は自らと世界とのあいだに作用する見えない力を、体感的に再発見することになるでしょう。
本展が、見えないものへの想像力を取り戻すための、小さな試みとなることを願っています。

上部へスクロール