名前と輪郭をなぞる

渡邊 拓也 / さわだ はるか / 羽香

  • 2026年03月21日 - 2026年04月18日
  • 会場:Marco Gallery 1F, 3F, 4F

私たちは、世界を理解するために、あらゆるものに名前をつけてきた。
名前をつけることで、それぞれの存在を図書館の本棚のように整理し、記憶に留めることができるようになった。
名前があれば探し出せるし、なければ、存在していたとしても見つからず、なかったことのように忘れられていく。
すれ違っても気づかれない、名もない足元の雑草。
けれどその雑草には、一冊の本や一本の映画でも語り尽くせないような、壮大な物語が眠っているかもしれない。
今あらためて、意味を問い、名づけられていないものに目を向けること。
整頓されたラベルをはがし、意味をごちゃごちゃにして、分解して、再び眺めてみること。
そんな営みを通して、私たちの見ている世界はどんなふうに変わって見えてくるのだろうか。
渡邊は、何気ない植物の向こうに広がる歴史や人々の記憶に触れようとする。彼の制作はリサーチがベースとなっている。そのリサーチは机上のものに留まらず、実際に現場に足を運び、人々との対話を通じて行われる。そのプロセスを通して生まれる空気感やつながりが、作品の核になっている。ただ情報を集めるだけではなく、自分の身体で感じることを大事にしながら、その土地のリアルな声に耳を傾けている。
さわだは、日々の暮らしの中でふと立ち止まってしまうような、ちょっとした違和感や気づきをきっかけに、まだ名前のついていない花を描いている。その花は実在しないけれど、どこかで見たような気がする不思議な存在である。
既存の枠組みでは説明しきれない、言葉になる前の感覚や風景をすくい上げる。
羽香は、日常の断片を手掛かりにして、鉄という硬質な素材を溶断機で切り出し、記号を生み出す。鉄は、まるで固定されて硬化した意味そのもののようにも見える。彼女はその硬さに、身体を使って向き合い、熱と力を込めて切断することで、意味をいったん解体し、もう一度組み直そうとする。彼女の作品は、「意味」に縛られたり、そこから自由になろうとしたりするせめぎ合いの中でつくられている。日常の中にある記号やサインを、自分の体や街の風景と同じ目線で捉えながら感じ取り、それらの重さを身体を通して浮かび上がらせている。いつの間にか社会の中で私たちの視界を曇らせていたものの「重み」を知らせてくれる。
この 3 人による展示は、「すでに与えられた意味ではなく、経験や身体、記憶を通じて新しく立ち上がってくる意味」を共有するものである。作品を通して、私たち一人ひとりにとっての「リアリティのある風景」が、どこにあるのかをあらためて考え、そこから未来を描いていくためのきっかけになればと願っています。

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